
ゴールデンウィークにSFの”古典”のジェイムズ・P・ホーガンのSF小説"巨人三部作"を一気読みしてからSF小説がマイブームです。
「星を継ぐもの」の舞台設定は2030年で小説が書かれたのは1977年。40年前に描かれた13年後の地球人は月に居住空間を作り太陽系内の惑星に有人の探査基地やコロニーを作っているようなテクノロジーの持ち主として描かれています。
シリーズ作中でも印象的な登場"人"物が「ゾラック」。地球人より進んだ文明を持ったガニメデ人が保有する中央コンピューターであり一人ひとりの個人と対話するパーソナルアシスタント(AIの人格)でもあります。
「ゾラック」は物理的実体を持たないゆえに、専用のアクセサリを付けた人(ガニメデ人でも地球人でも)ならだれでも使い始めることができます。どこにいても呼び出せて、彼の通訳を介して異星人同士で会話をしたり、彼との対話を通して情報を引き出したり、彼経由で宇宙船などを操作したりすることが可能です。おちゃめな人格を持っているので目的のない暇つぶしの会話にも対応する愛すべき相棒。
ところで、「星を継ぐもの」ので描かれる未来の描写にはゾラックのような、「これぞSF」というようなディスプレイ群に壁面が覆われたコントロールルームや、iWatchのような時計型のデバイスも登場する一方で、スマートフォンのようなものは登場しません。

この作品に限らず、宇宙が舞台になるくらいの未来像を描いたSF作品にはスマートフォン的な小型ディスプレイで操作する携帯型コンピュータってあまりでてきません。2017年の現在の文明の利器として最も頼りにされているスマホとは、到達点ではなく過渡期的なアイテムなのかもしれません。
もっとも、SF作品において手持ちのスクリーンに向かってチマチマやるのは絵的にかっこよくないですよね(笑)それに対してゾラックのような音声認識とか、同時翻訳とか、AIとか、パーソナルアシスタントとかは、わかりやすい驚きと飛躍的な利便性を想起させます。
ようこそ、ボイスコンピューティングの世界へ
さて、SFの世界の話はこれくらいにして、現実の地球人の2017年のテックトレンドを見ると、Machine lerning や Cognitive Experts Advisors などAI関連のカテゴリがハイプ・サイクルの頂点(過度な期待期)にいます。そしていま、BtoC分野(欧米のお茶の間)ではマイクとスピーカーを搭載した据え置き型の音声AIアシスタントがさまざまなソフトウェア・サービス(ECやUber)や、IoT系のスマート◯◯製品(Phillips Hue など)と連携して大きな市場を生み出すと期待されています。

Amazon Alexa, Google Home, そして先日発表された Apple HomePod の登場で、主要プレイヤーが徐々に出揃ってきた感があり、今まさに熱いこのカテゴリなのですが、日本では軒並み利用ができないため、国内では体験とともに語り共感できる人が少なくて盛り上がらないのが現状。
そんな折り、京都とサンフランシスコを股にかける起業家であり、自身も音声を使った革新的なコミュニケーションに挑戦中の井口さんが「Alexaはよくできている、ボイスコンピューティングは体験したらすぐに分かるけど、説明されても伝わらない」とお話しているのを聞いて、このままずるずるガラパゴスではまずいと思いたち、Amazon Echo Dot を個人輸入して、自宅で試用してみることにしました。

日本語圏での利用は想定されていないのですべてのやり取りは当然英語。悲しいかなヒアリングがおぼつかない自分は、天気予報もニュースチェックも聞き取るために身構えてしまうのでリラックスできません。さらには AmazonのUSアカウントからしか日用品は買えない、自宅のリビングにはスマート家電もない、カリフォルニアからはピザも頼めない(笑)、ということで、いま日常的に使えそうな機能は「アラーム」「音楽(視聴)」「ToDOリスト」あたりに絞られました。
その中でも、いろんな「対話(応答)」が楽しめて、わかりやすく「これは生活が変わるな」という予感を得られたのが「音楽」体験です。

まずひとつめのインパクトは、デバイスに近づかなくても、デバイスの方を向かなくても、部屋の中でコマンドを発生したらなかなかの精度でAlexaが反応すること。
家に帰ってカバンをおろしながら、冷蔵庫を開けながら、自然に部屋に音楽を流し始めることができました。同じことはAndroid (OK, Google)やiPhone・iPad(Hey, Siri)でもできるけど、マイクに向かって畏まって喋るのと「ただ、声を出すだけ」というのは大きな違い!ということがやってみてちゃんと体で理解できました。

ふたつめのインパクトはフレーズによる豊富な音楽のリクエスト方法。
"Alexa, Play Spotify"
"Alexa, Play a song
"Alexa, Play some music.'"
"Alexa, Play [genre] music.'"
"Alexa, Play the song, '[title].'"
“Alexa, Play [song name] by [artist]”
"Alexa, Play the album, '[title].'"
"Alexa, Play the [playlist name] playlist."
"Alexa, What's popular from [artist]?"
"Alexa, Who is in the band [name]?"
現時点でもこれくらいのコマンドで Spotify やAmazon Music というジュークボックス と対話ができます。
今までは「スマホを探す→スマホを持つ→ロックを外す→Spotifyを開く→discocerタブ→スクロール→ Acostic Blues をタップ→スマホを置く」とやっていた一連の作業が、「Alexa, play accostic blues playlist on Spotify」の1つで済んでしまうのです。

「デバイスを意識する必要が殆ど無いリビングで」「ワンフレーズでひとっとびに命令できる」
音楽を聞くインターフェイスとして、据え置き型のAlexa dot/Echoが優れていることはこの2点でした。
繰り返しになりますが、この感覚は実際に自分の家のリビングに置いて使ってみるまでは体でわかりませんでした。さらに言うと音声応答というのは、人がやってるのを横で見ててもわからなくて、自分でやってみること(声をだすこと)が大事でした。

さて、音楽視聴のことばかり書きましたが、下記のようなことも、リビングで思いついたらひとっとびにお願いできるので便利です。これから試してみます。
・ささいな用事(あとで洗濯物取り込もうとかくらいの)のTodoリストへの追加操作。
・照明の操作。オン・オフの切り替えだとスイッチとさほど変わらないけど、Hueのように幾つかの設定を切り替える必要性のある環境だと、スマホを探さなくて良くなるのはとても便利(というか今、スマホのHueアプリを介しているのこそが過渡的)
・IFTTTを介して流れてきた曲の情報(曲名、アーティストなど)をGoogleSpreadSheetやEvernoteに書き込む。「ギターソロ」「あとでコピる」のようなタグ的な分類も声でできるようになると最高。
おおっと、IFTTT連動のように今あるものを使って工夫し始めるのは(Web2.0 的な)デバイス・ガジェット好きのIT男子の発想でした。ボイスコンピューティングを決定づけるような用途やサービスは、Web2.0やその流れをくむスマホエコシステムの呪縛からは離れたところから発生するに違いありません。
さよなら、モバイルファースト

そう、Alexa としばらく暮らしてみて気づいたことは、2000年代以降、推し進められてきた
携帯電話→スマートフォン→スマートウォッチ
のモバイルファーストの流れと、来る音声コミュニケーションによるユーザーインタフェースの進化は延長線上ではなく、別物であるということでした。
スマホや腕時計の小さなディスプレイでどう表現してどう操作させるかに、イノベーション(と金塊)があると嗅ぎつけた優秀な人たちがここ数年間、しのぎを削ってきたことが一度リセットされる感じが新鮮かつ痛快であります。
ちなみに、Alexa というのは音声を介した対話エンジンのことなのでデバイスがなくても スマホのAlexa アプリがあれば体験(対話)ができます。ただし、スマホのマイクを使うことになるので、「リビングのそこにいつもアイツ」的な良さは全く体験できません。今後はスマホの進化よりも、身につけていることを感じさせないAirPodsのような製品が単体で応答できるような進化が本命です。

ホーガンのSF小説に登場する人工知能アシスタント・ゾラックは、利用者ひとりひとりが専用のアクセサリを身につけることでアクセスできるから、基本の利用方法は"人1対ゾラック1"なんですよね(ゾラックは同時にすべての利用者と対話しちゃうスーパーコンピューターなので真実は多対1なんだけど、利用者の感覚はあくまで1対1)。いま普及しようとしているAlexaなどのリビング据え置き型の音声AIスピーカーは誰の声でも拾ってしまう"仕様"がありその辺りどう進化・分化するのかも楽しみですね。
補足
※外付けスピーカー推奨のAmazon Alexa dot にも簡易ですがスピーカーついてます※音楽プレイヤーのデフォルトはAmazon(com)のプライムミュージックです
※Spotify はプレミアム(課金)ユーザーがAlexaと接続できます
※AlexaアプリはUSのGooglePlayやAppstoreからしか入手できません
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スマホはこれくらい小さくなって複雑な用途を「諦める」ことによるシンプルさを得て残っていくのかもですね。