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エアロスミスは自分の青春ど真ん中のロックバンドです。高1の夏休み初めて買ったFERNANDES のレスポール型ギターで最初に通して弾けるようになった曲は「Dream On」、大学で軽音サークルに入って最初に組んだバンドで演奏した曲は「Eat The Rich」「Draw The Line」「Toys In The Attic」でした。



さて、ひと月程前にこんな記事が話題に。
エアロスミスのジョーイ・クレイマー(Dr)は、もはやアルバムを作ることに意義を見出せないそうだ。
彼は『Ultimate Classic Rock』にこう話した。「アルバムを作るって素晴らしいことだと思うよ。でも“なんで、わざわざ?”って気もする。売れないし、なんにもならない。(制作費を)払ってくれるレコード会社なんてないから、自分の懐から出すしかない。特に、契約のないフリー・エージェントである今の俺らにしてみれば」

エアロスミス「もうアルバムを作る意味がない」 | Aerosmith | BARKS音楽ニュース
さらにはこの話題にかぶせてこんな「ブランド論」も。
そこで最後に、もし私がエアロスミスの戦略コンサルタントであったならどういう改善策を打ち出すか、というのをまとめてみました。音楽ビジネスの構造的な部分や、契約関連の事情などはよく分かっていないので、荒唐無稽な妄言になってるかもしれませんが、一応書いておこうと思います。

エアロスミスのアルバムが売れなくなったのは市場変化のせいなのか? | HUFF POST
後半の「私ならこうする」論の展開は、エアロスミスである必要が一切ないご提案で卒倒しそうになりました。ただ、こういうことが書けるのが個人のブログなのでいろんな持論が展開されるのは良いことですよね。


"良いアルバム"をスポイルする時代?

googleplay
さて、このBARKSの方の記事はそこそこ話題になったので「エアロスミスほどの大物でもアルバムが売れない」問題についてネット上でのいろんな切り口からの感想を見ることができました。

1.ダウンロード販売やYoutube によってアルバムは終わった論

曲が切り売り消費されるようになった。あと、デジタルデータになって簡単にシャッフルやスキップができるようになったのでますますアルバムが統一して鑑賞されにくくなった。つまり「良いアルバムを作っても消費者が正しく鑑賞しない」という意見です。

2.オールドファンがお金を使わなくなった論

CDかダウンロードに関わらずおっさんになると新しい音楽買わなくなるから彼らをファン層とするミュージシャンのセールスは下がるのが当たり前。「良いアルバムを作っても消費者がいなくなった」という意見です。

3.大御所ってそんなものでしょ論

偉大なバンドでも創造性が無尽蔵に湧いて出るわけではない。レジェントが過去の傑作を超えれるわけない。エアロスミスは1度大復活しているからって2度目の復活が出来る保証はあるわけない。今もアルバムを出し続けてくれるのはコアなファンにとってはヘルスチェック的な意味で有り難いのでお布施的に買いますよ(なんて今さら言わせないでw)。「良いアルバムは出しきっちゃった」という意見。

4.単にこのアルバムのクオリティが足りなかった論

良いアルバムを作れば市場は反応するはずだという正論と、全体の市場は減っている中でもさらに相対的にエアロの新作が振るわなかったという事実から「良いアルバムではなかった」というぐうの音も出ない意見。だからジョーイが実名を出して
いまの音楽は使い捨てだ。はい、これって出しても、5分後にはもう別のものが出ている。俺らはジャスティン・ビーバーやニッキー・ミナージュとは違う。だから、残念だがアルバムは意味がない

エアロスミス「もうアルバムを作る意味がない」 | Aerosmith | BARKS音楽ニュース
とまで言っちゃったのは(言っちゃったのだとしたら)大ベテランとしてはいささか筋が悪かった気がします。


芸術作品としてのアルバムとロマン

pump
音楽雑誌の定番企画として「無人島に持って行きたいアルバム」というコンテンツがあります。

無人島 ~俺の10枚~|HMV ONLINE
http://www.hmv.co.jp/serialnews/muzinto/

「無人島」という
  • 時間が余るほどたくさんあって
  • 誰も邪魔する人がいなくて
  • 100%そのことに集中することができる(するしかない)
  • 一生それを聞き続けるしかない
設定の中で、何百・何千枚とアルバムを聞いてきたミュージシャンがひねり出すその数枚と薀蓄をファンは楽しみに味わうわけですが、この遊びは、明確なテーマがあって、曲同士のつながりとストーリがあり、ジャケットがあり、ライナーノーツがあり、ひとつのアルバムという芸術作品になっていることを知っている人・それを粋と感じている人だけが楽しめるニッチな楽しみになってしまったのかもしれませんね。

CDだろうとダウンロードだろうと関係ないんですよ。個々のバラバラな曲じゃなくちゃんとひと固まりの作品として構成されたアルバムというところに意味が あるんです。べつに気張って壮大なコンセプトアルバムとかぶち上げろって話じゃないよ。アーティストが音楽と向き合って1枚のアルバムというフォーマット に10数曲をまとめてパッケージングするという過程において、本当に優れた内容であればそこに後づけでも何かしらテーマというか1本筋が通ったものができ るはずだと思うんですよ。そしてその結果として、ただの曲の寄せ集めではない1時間弱の連続した音楽体験を提供するアルバムという1つの作品になるわけです。

エアロ、アルバムやめるってよの話からアルバムというフォーマットの今後について思うこと : Hack Forever

アルバムというパッケージにはロマンがあります。
  • ある曲が終わったら次の曲のイントロが脳内再生される
  • 良曲の間に挟まった佳作や捨て曲も歌詞まで覚えている
  • メタルテープでダビングする
だから僕は、デジタルファイルで管理して聞くようになった今でも、アルバム単位で好きなアルバムは「作業用BGM」にはできません。そっちに集中しちゃうんですよねw

自分にとっての「良いアルバム」は、やはり10代のころに聞いたアルバムがほとんどですが、最近リリースのものや最近出てきたアーティストでも(購入量はすっかり減っちゃいましたが)全くないわけではありません。

Only By the Night
Kings of Leon
RCA
2008-09-24


Congratulations
Mgmt
Sony
2010-04-13


(そんなに最近でもなかったw)

そして、アルバムでファンの脳裏に一旦焼き付けられたパッケージをリビルドするのがライブという体験。アルバムリスナーには、アーティストが新しく提案した意外性のある曲順やアレンジに興奮できるという素敵な特権があります。

アルバムもライブも没頭できる体験のパッケージという意味では同じ。
だけど2014年の今、アルバムをまるで「無人島」のように身を委ねて没頭して鑑賞する環境や機会、習慣が減ってしまったことは確かなようです。

パッケージとしての良いアルバムを楽しもうとする人の層はデジタルネイティブ世代のみならず、元レコード・CD世代でも減少しています。そういう意味では、ブラッド・ウィットフォードが言っていることの方が真実に近そうです。

『Music From Another Dimension!』のセールスが振るわなかったことには、ブラッド・ウィットフォード(G)も以前、「本当にガッカリした。俺らは昔かたぎのバンドだが、今の時代、アルバムってものが昔とは違う。全ての過程が変わってしまった」と話している。

エアロスミス「もうアルバムを作る意味がない」 | Aerosmith | BARKS音楽ニュース
ちなみにジョー・ペリーに比べると影が薄いブラッドですが、彼がリードソロを取るこの曲は名曲です。このサイケがかった気怠い感じから始まって最後はお得意のファンキー・ジャムが繰り広げられる流れは、第1期エアロの楽曲の真骨頂。




で、最近のエアロスミス

さて、話を少し戻して50万枚「しか」売れなかったエアロスミスの最新作「MUSIC FROM ANOTHER DIMENSION!」を改めて聞き直してみましたが、


全15曲中4,7,9,11,15がバラードで結構似た感じ。そもそも全15曲が多いので集中力が続かないうえに、バラード以外は良くも悪くも渋目の楽曲なのでなかなか印象に残りません。(売り文句は「原点回帰」だそうです)

ということで、オールドファンの自分がどれだけ甘めにみても「無人島」に持って行きたいアルバムにはなりません。Amazonのレビューも割れているようにそれぞれの曲は「好きな人は好き」な佳曲揃い、そんなアルバムです。

そして僕はこれが「ミス・ア・シング」 (I Don't Want to Miss a Thing / 映画『アルマゲドン』のサントラ)以降のエアロスミス自身のやりかた・売り方だと思っておりました。

ちょっ冷めた見方ですが、(現在も活躍している20世紀のロックスターの多分にもれず)「バンドとしての創作性の旬は過ぎた(もう魔法は使えない)」ことを理解しているスティーブン・タイラーが、今の時代に生き残って評価されうる個別の良曲作りにシフトしている結果なんだと。今の時代は「良い楽曲」が「たくさん」詰まっていれば「売れるアルバム(≠良いアルバム)」になる可能性は高いですから。

ところがどっこい、今「良いアルバムを作っているのに売れない」と嘆くドラムのジョーイ・クレイマーはスティーブン・タイラーとは一番の幼なじみで「AEROSMITH」の名付け親だったりします。そんなコアメンバーの彼が、まるで自分たちは今風のアルバム作りをしていないような言い方で、さらにセールスという結果が出ないことを天真爛漫に嘆いていることがいちファンの目からすると滑稽に見えました。

結論としては「そういうことはバンド内でもよく話し合ってください!」としか言えません(苦笑)

でもまあ、レジェンドとなった彼らが今さら一致団結している必要もないので、今のままお爺ちゃんになったメンバーがそれぞれ好き勝手言ってメディアやブランドコンサルタントや(僕達のような)昔気質のリスナーに、議論のネタを提供しておくくらいの波風があった方が良いかもしれませんね。



バンドなんて言っていることが首尾一貫してなくてもロジカルでなくてもいいじゃないですか。バンド仲が悪化しているという噂もありますが、ロッカーらしく自由奔放に適度にケンカしつつも、息のあったステージは長く続けてほしいものです。(アルバムより稼げるのならなお良し!?)また日本に来てね!

エアロスミスのS.タイラーが路上ライブ ヘルシンキで【動画】
http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/01/steven-tyler_n_5428707.html

大阪梅田の路上ライブにエアロスミスVo.スティーヴンタイラー降臨の件wまとめ - NAVER まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2137669763372660301

大阪十三にスティーブン・タイラー出現 - NAVER まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2137655995116500601



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