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Retired The MediaRetired The Media / cogdogblog

バンド友達が練習中に例に挙げる最近の日本のイケてるバンドを全然知らなくって内心「良い音楽との出会い」に危機感を覚えている30代半ばの今日この頃。

MUSICMAN-NET で連載されている「未来は音楽が連れてくる」という連載企画、全部読んでいたわけではなかったけど、最終回の佐々木俊尚さんとの対談内容が網羅的でとっても分かりやく、かつ自分の中で近年稀に見るヘビーなボリュームで面白すぎたので、気になったところを引用しつつ、私見を書き残してみます。

「未来は音楽が連れてくる」佐々木俊尚氏 × 榎本幹朗氏 特別対談【前編】 | Musicman-NET
http://www.musicman-net.com/SPPJ01/54.html
「未来は音楽が連れてくる」佐々木俊尚氏 × 榎本幹朗氏 特別対談【後編】 | Musicman-NET
http://www.musicman-net.com/SPPJ01/55.html

音楽ではビッグデータの活用は、Pandoraあるいはlast.fmなどで既に2005年ぐらいからずっと行われてきました。ビッグデータという言葉が無かった頃からです。昔から音楽というフィールドは、常に最先端の技術が駆使される場所でした。それは今も変わらないんですよ。一般的な見解では、音楽ビジネス=古い・遅れてるみたいなイメージになってますけど(笑)。
こんな感じで日本では利用できないのであまり話題にならない Pandora とLast.fm の理解が前提になっているマニアックかつ膨大な文字量の記事でございます。

以下、引用中心で長いですがこのテンションに付いてこれる方はお付き合い下さい^^


現在はメディアのミッシングリンク期間だった(のか!)

僕は音楽業界からすると完全に外側の人間なので、その立場からの意見になりますが、今音楽を知る場所というのがどんどん消滅していて、その消滅とPandoraやSpotifyのような共有サービスが主として使われるまでの間がミッシングリンクになっていると思うんです。
国内の音楽もそれ(新聞からネットメディアに移行する間の空白期が生じているニュースの世界)と同じで、90年代ぐらいまでは雑誌や音楽番組で情報を仕入れて、ライブやコンサートを聴きに行く/新譜を買うという挙動が普通だったと思うんですけど、最近は気が付いたら自分が好きなミュージシャンがニューアルバムをリリースしたことも知らなかったみたいなことが普通になってしまっています。
あるある!ネットがあらゆる分野を便利にしてきているのに本当に不思議です。とは言え、その課題(≒ビジネスチャンス)に挑戦するサービスやアプリもあるんですが、どうも定着しないんですよねえ。

gigle (ギグる) | オンガク×テクノロジーをおもしろくする
http://gigle.jp/
音楽でも「今度出したアルバム良いよね」「あのアーティスト似ているのはこれ」という議論や情報交換が分かりやすく見える場所というのがあれば、気楽に自分の知りたい情報を仕入れられる。ある意味それはマスメディアの再構築で、ネットメディア上で新世代の「ザ・ベストテン」みたいなものが生まれたらいいんですけどね。ソーシャルメディアはやはり自分から参加しなくてはいけないので、ハードルが高い。その下の層をきちんとおさえることのできるメディアが登場すれば、多分音楽に触れる場所も増えていくのではないでしょうか。
かれこれ、「このようなことがネットでできたらいいなあ」と思いながら実に15年くらいが経ったわけですが、ネット上に「キュレーション」と称するコピペ情報が溢れるようになっただけで、音楽を発見する機会や出会いの質が上がったという実感は残念ながらそれほどありません。


マーケティングの罠にギクリ

ミッシング・リンクはマーケティングの世界にもあります。ソーシャルでもマスでも、マーケティングでは一番お金を持っている年齢層を狙いがちなんですよね。
現在の音楽配信を見ていると、30代〜40代の男性はCDをいっぱい買うということでそこへ向けてマーケティングをしているようです。定額配信が当たらない理由のひとつです。その人たちはもうCDで満足してるんです。新市場を創ろうとしてるんですから、音楽にお金を使わずYouTubeで満足している非消費者層へぶつけていかないといけないんです。
「意外とCDで買いたい派」でAD/DCの紙ジャケ復活とかホイホイ買っちゃてる自分にはドキッとする話。それが、新しいビジネスモデルやイノベーションへの移行を鈍化させているのだとしたら。。
SpotifyやPandoraのようなサービスの出現は、流れ的にiTunesやiPodの時と同じように感じるかも知れないのですが、ビジネスモデルから見ると全く別ものなんですよ。iPodやiTunesというのは、流通経路は確かに変えたかもしれないですが、ビジネスモデルではそれほど革新を起こしていない。
かわりにより一層大事になっていくのが、マーケティングやレコメンデーションです。楽曲をディストリビューションに登録しても、誰もアクセスしてくれなければ何も起こらないからですね。ある意味、お店に置けば手に取ってくれた時代よりもインディーズはシビアになります。インディーズや新人には、Pandoraのようなミュージック・ディスカヴァリー・サービスがいっそう大切になっていきます。
Pandora とは、コリア製の動画サービス、、ではなくって2000年から存在する音楽のストリーミングサービス。「ミュージック・ゲノム・プロジェクト」というレコメンデーションエンジンが何とも学術的かつ夢のあるプロジェクトなのです。

Pandora という私的最強の音楽×ネットサービスの話 : Blog Start All Over
http://blog.livedoor.jp/ldmoriuchi/archives/5907197.html


ああ、懐かしの Last.fm

例えば、(Youtubeは)一人あたりの平均使用時間が十数分しかないんですね。ラジオやテレビだと40分以上あります。そう考えると、その中で紹介される曲数はかなり限られてしまう。さらに、そこからの関連動画もだいたい同じアーティストになっていて、あまり拡がりがないんです。
そういう意味では、ニコニコ動画の方がまだ新しくて、次のステージに近いものを持っていると思うんです。滞在時間の長さを実現しているところは、ニコニコがYouTubeよりも未来に近い点ですね。
ニコニコ的にコミュニティー化していく方向性とPandora的なアルゴリズム寄りのレコメンデーションが進化していく方向性が、最終的にどのように融合していくかには、非常に関心があります。
last.fmは一時期それに近かったんですね。創業者は定額配信の取り込みに着手しようと考えていましたし、Last.tv構想を持っていました。しかし、CBSに買収された直後にリーマンショックが起こって、おしなべて子会社を黒字化しないといけなくなったんです。それで成長戦略から、あまりにも早く資金回収のフェーズに切り替わりました。それで自由を奪われた創業者チームが会社から出ていってしまった。
ウェブの連載には掲載していないんですけど、実はlast.fmを扱った章があったんです。last.fmには、ハイプチャートという、いわゆる赤丸急上昇中のチャートがあります。last.fmの中で急に再生回数が上がってくるものを拾い上げたチャートですね。この仕組みのおかげでArctic MonkeysのようにLast.fmからメジャーデビューしていく事例も出てたんですね。
最近ちゃんと追えていなかったので納得。ビックデータなんて言葉がない頃からデータを集積して早い時期からAPIも用意してワクワクさせてくれたLast.fmの今。

SNSに限らずソーシャルメディアには、もうひとつ課題があります。音楽を通じたコミュニケーションというのは言葉によるコミュニケーションとはちょっと違うところがあるんですね。音楽を言葉で伝えるには特殊な才能が必要で、例えば普通の人だと「この曲いいよね」とか「この曲好き」ぐらいしか表現ができない。シェアーするURLにつけるキャッチが難しいのです。
音楽コンテンツは、テキストコンテンツと違って、言葉に脳内で翻訳して表現するのが野暮だからこそ、Pandoraのようなレコメンデーションが活用される余地は大きいですよね。


ミュージックグラフとソーシャル要素

もうひとつはエンタメ全般に言えることなのですが、以前までは自分を楽しませるために、CDにしろ何にしろ購入していましたね。ですが、ソーシャルメディアによって「シェア」の文化が定着し、「人が喜んでくれたときに自分も楽しい」という枠組みがビジネス・レベルでもはっきりとしてきたんです。誰かを喜ばせるためにお金を払うということで、課金の仕組みが少しずつ変わってきている。
非言語コミュニケーションは重要なテーマで。LINEの話が出たので少しつけ加えると、スタンプが面白いのは単なる感情表現じゃないところ。怒っているスタンプの絵を知らない人に送ったらケンカになりますけど、恋人同士で同じスタンプを送ったら「怒っている」表層のイメージとはまた別の「もう、そんなこと言うと怒っちゃうよ」みたいな親密なメッセージがちゃんと伝えられる。
実のところ、リアルソーシャルグラフの力学を使ったLINEスタンプの成功事例がそのまま純粋な音楽サービスに当てはまるかどうか自分は懐疑的です。なぜなら、LINEは言うまでもなく友達・家族とのコミュニケーションツール以上でも以下でもないので人と人の関係性をどうハンドリングするかの力学が最優先で働く。だけど、音楽ってもっと本能的で直感的で非社会的でパーソナルなものであると信じています。「自分はセロリが大嫌いだけど仲良しのみんなが好きっていうから自分も好きになっちゃった」とかあるかもしれないけど本質ではないと思うんですよねー。
今までは「これからはソーシャル」で終わっていましたが、もっと本質的になってきました。ソーシャルの前提として、パーソナルの価値が再定義されるようになってきたんです。誰かに感動をシェアする前に、まず自分が感動を発見する段階があります。この段階でPandoraのようなパーソナライズド・サービスが効果を発揮しだしています。
そういう考え方なので、榎本氏の言う「まずパーソナルでの感動があってソーシャルでシェア」という順序には強く同意。音楽という趣味においては、ソーシャルからの発見はあったほうがいいけどなくても十分愉しめるのでは。

逆にパーソナル段階を軽視して既存SNSのソーシャルグラフを介したシェアやレコメンドが繰り返されると、(理由もなく同じものを愛でるようになる)タコツボ化するか(自分にとっては)この対談の言葉を借りると「ショートヘッド」化する残念な音楽マーケットになりそう。

ここ1〜2年はソーシャルグラフのAPIが驚くほど簡単にハンドリングできるようになったことで例外に漏れず、音楽系のTwitter or Facebook 連携サービスがワサワサと出てきた感があります。いつものSNSのお友達がコミカルなアバターに扮してDJスタンドの前に集まって公約数的な曲をかけてキャッキャウフフする。

そういうサービスは音楽の楽しみ方の一つではあるけど、発見や探検に対して何のイノベーションも起こってないですよね。1週間かそこら遊べるサービスではあるけど、音楽を一生の趣味にする人にとっては割とどうでもいいオモチャでした。

ミュージックグラフにおいて音楽でいうセレンディピティは2種類あって、ひとつはPandoraのようなレコメンデーションエンジン経由のもので、それは類似性や共時性が基本となります。
もうひとつの方は、今まで自分が好きじゃないと思っていたジャンル/音楽と新しく出会うというもので、これに親和性が高いのがソーシャルなんですね。
例えばこの人が紹介する本は面白いというブロガーがいたとして、普通なら僕が決して読まない少女漫画を彼がオススメしていたので、買って読んでみたら面白かったということと同じですよね。
うーん。こうは言うものの「人」経由の「趣味」のレコメンドが重宝される割合ってどれくらいなんだろう。これが一定以上の精度で機能するにはだいぶん深く「人」の属性を見ないと広告と変わらないくらいのノイズになりそう。

音楽版Instagram と言われた Soundtracking というスマホアプリがあります。趣味のソーシャルグラフ(インタレストグラフ)から新しい楽曲との出会いが期待できるサービスではあるのですが、サービスをスケールさせるためにネットワーク外部性を無視するわけにはいかず、利用開始時に TwitterなりFacebookの友達とつないでしまうのでピュアなインタレストグラフが形成されにくいということが起こっています。

インタレストグラフとソーシャルグラフをいっせいのーでで混ぜてしまうと後者が勝ってしまいがち。「音楽のビックデータ()」が開放されることで変わってくると良いのですが。

セレンディピティというのは、人と人をつなげることによって生まれるのか、もしくは楽曲そのものの属性でみるのか。属性をみる方がどちらかというとアルゴリズム的であり、人と人のつながりをみる方がソーシャル的ですけど、アプローチの方法においては相互入れ替え可能な部分もあるだろうと。
まさに!ここのチューニングがハマれば、自分は音楽に今の2倍以上のお金をかけて3倍以上のライブに足を運んで10倍以上の新しいバンドの曲を楽しめていることでしょう。
最悪なシナリオとしては、音楽に月何万円も使っていた層が月千円しか払わなくなる。かつライト層は、Spotifyに見向きもしないか、無料会員でしか使わない。こうなるとマイナス作用しかなくなります。このシナリオは、フリーミアムモデルでないMusic Unlimitedのような定額配信でも想定しうるのが恐ろしいところです。ストリーミングは、正しく使わなければ救世主にはなりません。
対談はまだまだ続いてフリーミアムモデルが主流になったときのビジネスモデルの問題に。この辺りのさじ加減は軽々しく意見するほどの専門性はありませんが、いちユーザーとしての未来は、パッケージとしての音楽という商品が絶滅したあとでも、フリーミアムモデルで利用出来る楽曲レコメンドの上位機能や、それらを快適に聞くことができるアプリや機能のサブスクリプションに喜んでお金を払っているとは思います。


格好の話題が続々と・・・

例えばデンマークだとラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のようなとても暗い映画が大ヒットするような国民性があります。日本だとラース・フォン・トリアーの映画なんて、せいぜいミニシアターでしか上映されないニッチなコンテンツでしかない。北欧の国々にはそういう面があるんですよね。それがいいのか悪いのかは別にして、日本ではエッジの効いたものに対する思考の分布、構図が北欧等に比べると相当違うんじゃないかと思います。
日本の場合、自分だけのパーソナライズドされた音楽を聴きたいというニーズもあるかもしれないですけど、それと同じぐらいにみんなと同じ曲を聴きたいというニーズも高いですよね。
その傾向は、地方、いわゆるロードサイドで特に顕著じゃないかな。
なんと、話が北欧を経由してまさかの「東京⇔地方」に展開!こちらも一家言ある話題で語りだしたらとても長くなりそうなので、一旦記事を切りたいと思います^^


総じて佐々木氏のネットやメディアに対する考えや分析はIT系メディアや著作である程度は親しんでいるのに対して、榎本氏が音楽分野に特化した調査やデータに基づいた新鮮なファクトを元に自説を展開するのが面白すぎる、なんともヘビーな読み物でございました。
(そして、こんな読み物がフリーで読めちゃっていいのかという問題も!)



佐々木:日本の問題って、こういう議論がIT周辺、ネットでしか成り立たないですよね(笑)。知識レベルが平準化されていないので。
榎本:IT業界だと佐々木さんのような方がファクトや数字を海外からどんどんもってきて、本やブログに書いてみんなに伝わっているんですけど、何故か音楽の世界だけ、そういうことがほとんど起きていなかったんですね。国内のデータばかりだし。


気が向けば残りの部分について考えたことも書きますね。(書くネタは十分すぎる!)



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こちら、エイベックスとサムソンで開発した独自のレコメンド機能が入っているそうです


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